昔インドの山奥に、兎、ジャッカル、猿、カワウソが仲良く暮らしていました。
ある日の夕方、この四匹は心のこもったご供養をバラモン僧にしようと話し合いました。
ジャッカルは大トカゲの肉を、猿はマンゴーの実を、カワウソは赤い魚をとってきました。
しかし兎はわずかの茅を取ってきただけでした。兎は考えました。
「茅を供養しても、誰も喜んではくれない。私には胡麻もなければお米もない・・・
そうだ!私の身体の肉を捧げよう」
この兎の心を感じ取った帝釈天は、神通力でバラモン僧の姿となり、兎の前に立ったのです。
「何かご供養しては頂けませんか」
兎は言う
「丁度よいところにお越し下さいました。ごめんどうでも、その辺りの薪を集めて下さい。
そうして火をつけて下さい」
バラモンが薪に火をつけると、兎は勢いよくその中に飛び込んだのです。
しかし兎は焼けませんでした。
帝釈天が神通力で火と見せかけたのです。
兎の決心が本当であることを知った帝釈天は
「この比類なく尊い心、限りなく高い徳が世界中に知れるよう、私は願わずにはいられない」
こう言ったかと思うと、山をグッと締め付けて、その汁で月の表に兎の姿を描きました。
そしてまた次のように言ったのです。
「世界中の人が、この兎の徳を仰ぎ見ることが出来るように」と。
ジャータカ物語より
円照寺
村上 宗博