西依成斎九十六歳の書「寿」
かみと ほとけと
「先日ウチの息子の結婚式を、
披露宴をするホテル内にあるキリスト教の教会で挙げました。
しかしウチも嫁の家もお寺の檀家です。
キリスト教の外国人から見たらさぞ滑稽に映ることでしょう。」
新聞の読者投稿欄に載っていた話。
日本人は信仰心が薄いのでしょうか。
さて私の勤務する「お水送り」で有名な若狭神宮寺の本堂には
仏像と神棚が一緒に祭られています。
このようなお寺はかつて日本各地に点在していました。
明治の廃仏毀釈で神棚が国家により取り払われたのですが、
ここはその難を免れ、現在この形で残されているお寺は
日本中でここだけになってしまったそうです。
廃仏毀釈はたかだか百年ほど前、
それ以前は千年以上も一緒に祭られているのですから
日本人の信仰は神仏習合が基本です。
しかし廃仏毀釈という愚考蛮行によりその信仰心が深刻な影響を受け、
今日本は国内総生産が世界第二位、
人口に占める年間自殺者数の割合も世界第二位という
皮肉でいびつな結果をもたらしています。
日本人は外来の仏教を受け入れ長年自分たちの生活に
取り入れて信仰してきました。
またキリスト教についても一時的な抵抗はあったにせよ
今ではすっかり馴染んでいます。
異質を認めて受け入れることのできる大らかで懐が深い国なのです。
正月には初詣で神社はごった返し、
お盆は実家の墓参りで交通機関は毎年大混雑、
クリスマスにはツリーを飾ってケーキを食べ、
葬式はお寺に頼み結婚式は教会で挙げる。
一見多面的ですが日本人の信仰は決して薄くありません。
べつに結婚式で新郎新婦の前に牧師が立っていようが神主で
も僧侶でも誰でも構わないのです。
どんな場所であろうと新郎新婦が真摯におまいりすることが大事であり、
神仏習合的信仰を長年育んできた日本人だからできるのです。
我々はそうしたいわば応用のきく根強い信仰心の素晴らしさに
もっと自信と誇りをもちたいものです。
現在、世界の紛争を見てもおおかたは一神教が国教として
大義名分に利用されています。
そうした意味では多神教であり他を認める術に長けている日本人。
また唯一原爆被爆国でもある日本が
世界平和に向けて今こそ発言するときではないでしょうか。
大飯町 海岸寺住職 石崎 靖宗
美しい若狭を守り伝えたい・・・・・・