その日の阿納尻村古津は、大変な騒ぎだったに違いありません。
なにしろ、今までに見たこともない大耳で、
鼻が長く図体の大きな生き物が人目に晒されたのですから。
文献によりますと、応永十五年(一四〇八)六月二十二日、
献上品を積んで、南蛮船が若狭小浜に渡来したとあります。
その品が、黒象一頭をはじめ、
山馬一頭、孔雀二対、鸚鵡二対などだったのです。
しかも、生きた象は、このとき初めて日本に上陸したのでした。
このような史実があるのに、このことを伝える逸話が残っていません。
わずか、甲ヶ崎に象をつないだ石というのがあるのみです。
真偽は別としても、
象の着いたことを裏付ける伝承がもっとあって欲しいものです。
そして、この象がどの道を通って京の都につれられたかは、謎のままです。
鈴木 治
美しい若狭を守り伝えたい・・・・・・