若狭塗箸の「秘密」



 若狭地方には、縄文時代から漆塗り文化が存在していました。
このことは、
若狭町にある鳥浜貝塚から、
漆の木の枝や漆塗りの櫛などが
出土していることからわかります。

また、近代においても、
戦前まで名田庄や熊川の山間部では、
摺漆といわれる手法を用いて、
床の間や食器などに漆を塗っていたことから、
うかがい知ることができます。





 今日いわれる「若狭塗」は、
慶長年間(
15961615)、
中国から入手した存星という技法の漆塗りの盆を、
小浜の豪商、組屋六郎左ェ衛門が
藩主酒井忠勝公に献上したことに始まります。


酒井忠勝公は、
城下の御用塗師である松浦三十郎に似せて作らせました。
それをもとに、
三十郎が海底の様子を模様にした菊塵塗を考案しました。
そして、三十郎の門人の西脇紋右衛門らがその技法を継承し、
紋右衛門はさらに海辺にさざなみの打ち寄せる様子を
模様にした磯部塗を考案しました。



万治年間(
16581661)になると、
金銀箔や卵殻が使われるようになり、
酒井忠勝公がこれを「若狭塗」と命名し、
現在の華やかな意匠を特徴とする若狭塗の技法が完成しました。





 「箸」の始まりは諸説ありますが、
現在の棒二本で一組とするかたちの箸は、
奈良時代からで、
庶民も竹や木を削った箸を使うようになりました。


鎌倉時代には、
箸のみを使用する
(他の米粒文化圏は匙なども使用)日本独自の食事法が、
室町時代には、
調理済の食事を箸で挟んで食べるだけ
(切り分けるなどの工程がない)
という日本料理の原型が出来上がりました。


また、江戸時代になると、
日本全国の漆器産地において、
各々の特色・技法が確立され、
各産地の技法を駆使した
「塗箸」が作られるようになりました。 




塗箸はそれまでの竹や木材のみの箸に比べ、
カビが生えにくく衛生的で日本人気質に合うこと、
口や手に持ったときのあたりが柔らかいこと、
多彩な表現で多様化した好みに対応できることなどを
要因に箸の主流となりました。



 若狭地方で作られた塗箸を、
一般的に「若狭塗箸」といいます。
昭和
30年代に作業性の良い塗料が開発され、
塗箸の大量生産が可能となったのを機に、
今では日本の塗り箸の
80%以上が、
小浜で生産されるようになりました。



 塗箸は直接口につけるため、
食品衛生に関連する規格基準の検査を受けます。
そして規格に適合したものだけが、
市場に流通し、
私たちの手元に届けられます。
一方で、天然漆の箸や塗装をしていない竹・木の箸に関しては、
自然素材のため検査義務の対象外となっています。


 割り箸は、国内では主に、
抗菌作用のある杉と檜の間伐材を使用して作られています。
間伐は森林保護の観点から今後も必要とされています。
ただ、そうした国産割り箸は国内では
10%しか流通していません。





 箸のまち小浜市では「マイ箸」を推進しています。
気に入った箸を長く使いたいと思うのは、
素敵なことだと思います。





箸選びのポイントに堅牢性を挙げる方も多いようです。
強度は、材質の硬度ではなく、
塗料の塗り重ねた回数にあります。
また、幾重にも塗られたお箸は剥げを気にせず使えるので、
結果として長く使えます。
長持ちさせるコツは、塗の状態を保つことにあります。




直射日光を避けて保存すること、
使ったら漬け置きをせず直ぐに洗い自然乾燥させること、
たまに乾拭きすることなどが挙げられます。
日々のちょっとした心掛けで、
塗りの状態を保つことができます。






 若狭塗は、
幾重にも塗り重ねた漆を
平滑に研ぎ出して
模様を表す「研ぎ出し変わり塗技法」でつくられます。


この技法は、
華やかな意匠だけではなく、
口や手に持ったときのあたりが柔らかくて使いやすい、
強度や耐久性など実益にも長けた
「若狭塗箸」の秘密も生みました。





華やかな意匠に惚れ込んだ酒井忠勝公と、
高品質なものを選びたい
現代人の私たちを満足させる
「若狭塗箸」の技法ってちょっと凄いですね。





御食国(みけつくに)若狭おばま食文化館
        学芸員 齋藤 光子







御食国(みけつくに)若狭おばま食文化館



1階は小浜の豊かな食文化を

2階では若狭塗りの伝統工芸を紹介

箸の研ぎ出し体験が出来る。





食文化館(若狭工房)の若狭塗伝統工芸士


私たちが、卵殻や貝殻、松葉、金・銀箔を使い、

海底をイメージした優美な技法を披露します。


 




日本の
   伝統工芸士

                        「伝統工芸士」は高度な技術と知識を持つと同時に、
                  産地で若手を育てる指導者でもあり、
                         伝統的工芸品の普及や伝統技術・技法の継承のため、
                 それぞれの産地で活躍しています。
     
    



美しい若狭を守り伝えたい・・・・・・