耕養庵蒼島短歌 (第六回) 平成十七年 夏季

アカシアの花は木の下いち面を白く染めて匂ひ放てり 谷口正枝
献穀の記念厳しき標柱に先追ひつ奉耕者書く 谷口正枝
甲ヶ崎に象つなぎ石残りゐて遠き歴史を偲びつつ触る 地村伊代
皆二師の歌碑を見上げて偲びをり角度を変へて詠めと云われき 地村伊代
凪ぐ海の沖まで蒼し古津潮千石船の往き交ふがたつ 杉崎康代
語り継ぐ北西風に遭難す異国の人を助けし浦人 杉崎康代
艶やかな友より賜びしさくらんぼ秋田の香りも満たせて届く 佐野鈴子
日暮れどき列なし空飛ぶ海猫の数かぎりなきさわがしさ聞く 西尾道子
蒸し暑きどんより空の一日なり草除る額汗のしたたる 西尾道子
京に来て伏見稲荷に詣ずれば茅の輪くぐりの縁に会ひぬ 古谷擴子
登美子碑に詣でし今日の緑蔭に一人佇み潮の香に酔ふ 吹田かな絵
野路行けば返り咲きたるタンポポに白蝶一ッ羽根をやすめり 吹田かな絵
太陽の光まぶしき海に来て波とたわむれ悩みふきとぶ 渡辺公夫
手を取りて駆けし浜辺を後瀬山ふり仰ぎつつ今日妻と行く 永江秀雄
人々の心をさそう耕養庵数々の和菓子がおいしい耕養庵 島田悦子
春風を背に受け歩く熊川宿幼なき日々を思い出す道 長谷川佳代
新緑の若狭路たのし娘と孫顔ほころびのうれし旅かな 緒方菊野
雪の中バスより見ゆる鯖街道廻りの木々も白き花咲く 阪口みちゑ
若狭湾孫と釣りして生き返えり又明日からのいきるはげみか 緒方広光
年老いた母の記憶の若狭路は戦死の兄と羽二重もち 中野悦子
とし重ね二人して歩く熊川宿葛饅頭に心なごみし 中野悦子
水羊羹今夏は体を癒すもの去年の体のありがたみ知る 今村美穂
ゆらゆらと小さき波に身をまかす子らの弾ける声を聞きおり 森口かな江
早朝の浜をジョギングする少女リズムカルなる息を残して 森口かな江
南川釣り糸垂れる人影は動くことなく流れのなかに 坂野光江
夕日落ち赤き潮が流れ寄る真夏の光と陰を残して 坂野光江




耕養庵蒼島短歌 (第六回) 平成十七年夏季 入選作品




第一席

 凪ぐ海の沖まで蒼し古津潮千石船の往き交ふがたつ


                                東勢 杉崎康代
寸評

上句は自然の美しさを詠まれています。
作者は静かな内海を見て遠き世に千石船が往来し、
又象が渡来した古津の海に思いを馳せています。
「古津潮」では読者に難解です。「古津の海」とすれば色々遠世も偲ばれます。
一連美しく遠世のロマンが読みとれます。






第二席

艶やかな友より賜びしさくらんぼ秋田の香りも満たせて届く


                                        生守 佐野鈴子
寸評

贈られたさくらんぼをこんなに美しく詠んでもらって贈り主は
きっと喜んでいると思います。
下句の「秋田の香りも満たせて届く」この歌のいい所であり、
また迷う所でもあると思います。どんな香りであったのか。
読者の感受する所であり、知りたい部分でもあります。
一首の裏に感謝の気持ちが読み取れます。





第三席

ゆらゆらと小さき波に身をまかす子らの弾ける声を聞きおり

                                  敦賀市鉄輪町 森口かな江
寸評

海に子どもさんと遊んだ時の歌ですね。
その時の様子をその侭言って歌になりました。
この歌の場合、嬉しいとか楽しいとか、自分の感情を言わない所が
よかったと思います。
この歌から子どもさんが嬉々として波に戯れている。
それを作者がにこにことして見守っている様子が
彷彿として読む者に伝わって来ます。




美しい若狭を守り伝えたい・・・・・・