耕養庵蒼島短歌 (第四回) 平成十六年 冬季

寒入りの発心寺山門に修行僧は編代笠かぶり托鉢に出る 林 征洋 
若狭鰈の軒先に並ぶ浜通り寒行僧の声発し行く 林 征洋 
威勢よく笊に揚げられし熱き蕎麦湯気立ち昇り歳晩となる 谷口まさえ
雨はれし入江に西陽及び来て二重の虹は蒼島にたつ 谷口まさえ
金色のさざ波眩し若狭湾夕日に劣らぬ輝き続く 坂野光江
かき貝の養殖筏が波に浮き止まりし水鳥ともに揺れゐる 坂野光江
雪降る日外に出て茶の一杯を飲む心地 西村 守
朝霧の春ののどかなこの日々を茶室でいただく茶の香 西村 守
朝つゆの朧月夜の我が心今新なる新年の年 西村 守
車の音聞き分く猫か戻り来し夫の車にかけ寄りていく 池田和栄
修理せし棟瓦黒く光りゐて一月盡の空押し上ぐる 池田和栄
小春日の続く年末豌豆はさゝ竹の手に縁広ごる 西尾道子
大波の仕業なりしか松根は消波ブロックに赤肌晒す 西尾道子
春風は小浜の街を吹き過ぎぬ葛ようかんの旗ゆらしつつ 古谷智子
小雪舞ふ薄氷張りし蹲にくれなゐ一輪寒椿落つ 村松恵美子
蕗の薹採り来てふとも想ひ湧く咳止なりしと舅言ひしを 小川リユ
霙降る小浜の町に寒行の僧は黙礼し浄財を受ける 林 征洋
松月は闇夜を照らし読経と法螺の音響き御香水の注がる 林 征洋
万葉の後瀬の山に似た菓子は香りほのかに心安らぐ 杉田季美枝
ふたたびは這ふ日なかりし亡き夫の星と光るか冬の雲間に 宇多蔚乃
雪降りに一人こもれば耕養の白きまんじゆう喰べたくなりぬ 藤井敏子
お茶席に出されし菓子の舌ざわり美事緑茶に溶けてうれしき 藤井敏子
水洋かんこたつにあたり冬景色見ながら食べて寒さ感じる 山本春奈
冬の朝窓を開けると雪景色寒さに負けず今日も我走る 清水瑛未
季節には甘さが嬉し思い出よ和菓子を食べて幸せになれ 寺川侑子
窓の外シンシン積る雪景色冬の和菓子とみかんとお茶と 宮武明
大晦日除夜の鐘をききながら雪のけしきを見るときれいかな 浅田友美子
春近きときは二月か冬の夜粉雪おちる冬のいちごから 水谷優菜
愛し人肩寄せながら空見上げ食べる和菓子は幸せの味 玉村虹児
しんしんと降りゆく雪の星空を見上げて食べれば和菓子が美味い 玉村虹児
雪降れば柚子の香のお茶をいれ縁側に出て降る雪をみて 田井奈月
雪景色見ながら食べるおしるこに幸せ感じ顔緩ませる 大口晃未
雪白き三十三の嶺のうるはしさ茶菓汲む君と眺むやすらぎ 古川鏡子
茶房より続く茶室の軒の下鮮しきまま残雪丸し 杉崎康代
雪降れば後瀬の山も雪化粧夕日がさせばほほも赤らん 木下恵美



耕養庵蒼島短歌 (第四回) 平成十六年 冬季 入選作品




第一席

 春風は小浜の街を吹き過ぎぬ葛ようかんの旗ゆらしつつ


                                       小浜市中井 古谷智子

  寸評
  若狭路に待ちに待っていた春が訪れ、暖かい春風に「葛ようかん」の旗が揺れている
長閑な風景がうまく捉えられた着眼点の素晴らしい歌です。
「葛ようかんの旗ゆらしつつ」の下句に臨場感があふれた良い歌だと思います。




第二席

 お茶席に出されし菓子の舌ざわり美事緑茶に溶けてうれしき

                                        小浜市堅海 藤井敏子
 
 寸評
  お茶席の銘茶と銘菓のお味の素晴しさと共に優雅な茶室の雰囲気も感じられ、
喜びの気持ちが良く表現されていると思います。
特に銘菓の舌ざわりと緑茶との溶けぐあいに焦点を絞って
詠んだところが成功と思います。「緑茶」を「抹茶」とされると良いでしょう。




第三席

 ふたたびは逢ふ日なかりし亡き夫の星と光るか冬の雲間に

                             
小浜市和多田 宇多蔚乃
  寸評
  冬の雲間に光る星を見上げて亡きご主人を偲んでおられる作者の気持ちが
痛い程良くわかります。きっとオリオン星座の中の
一番よく光っている星に心を寄せて詠まれたのでしょう。
余白の深まりを感じる心象詠です。





ジュニアの部

 雪景色見ながら食べるおしるこに幸せ感じ顔緩ませる

                            
福井市 大口晃未

  寸評
  今年は近年に無い大雪の日が続きました。炬燵にあたり雪見をしながら
温かいおしるこを食べておられるのではないかと想い、
その様子が目に浮かびます。読者にも幸せのおすそわけが戴けそうな気がします。
特に結句の「顔緩ませる」の表現が巧みであると思います。
  








野いちご
                            
時岡兵一郎氏

美しい若狭を守り伝えたい・・・・・・