耕養庵蒼島短歌 (第三回) 平成十六年 秋季

ふくよかな香りにひかれ見上ぐれば金木犀の花盛りなり 多田 蘭
カーラジオつければ話題はさば街道*リ枯らし一号若狭路の朝 内田あき子
つかの間の秋の陽だまり愛おしみつ茶会に集ううの瀬のほとり 内田あき子
蝋燭の灯りに寄りて夕食を漫ろに済ます台風の夜 古谷 子
乗客は吾一人なる一輛車ドア丁寧に開閉しくるる 池田和栄
この夏のほてり沈める秋雨に柿の実ひそかに太りゆくなり 池田和栄
椿杖曳きて漂ふ八百比丘尼ま白き風に海風含ませ 松原右樹
残されし我が人生にやすらぎを注いでくれし万徳寺 中川文男
御食国の歴史をたどる恵み館に塩鯖を担ふ人夫の飾らる 林 征洋
秋空に祭り囃子の鳴り響き飾られし山車が町を練りゆく 林 征洋
雨傘を廻しつゝ行く下校の子歌える声のおりおり聞こゆ 西尾道子
荒草にまじりて咲けるコスモスのくれない揺るゝを立ち止まり見る 西尾道子
香り立つ金木犀の樹の下に六体地蔵は笑みて坐はする 谷口正枝
涼求め久須夜ヶ岳に登りなば眼下に拡がる若狭の夕日 高鳥廣子
今日もまた静寂を破りヒヨドリが熟柿をつつく若狭路の朝 足立 哲
突然に枯木の目立つ多田ヶ岳酸性雨害か人類めざめよ 足立 哲
ほどほどの甘さが嬉し小浜なる耕養庵の和菓子召されよ 谷藤勇吉
同行二人道行き急ぐ鯖街道小浜辺りはぎんぎら焼けて 谷藤勇吉
歌詠むを止めにし後の家持の月日想いて若狭路を行く 谷藤勇吉
みちのべの熟柿に赤く頬染めて同行二人若狭路の旅 谷藤勇吉
ほどほどの甘さが旨し若狭なる耕養庵の和菓子召せ友 谷藤勇吉
潮の香の仄かにありて晩秋の水平線に貨物船の消ゆる 森口かな江
紅葉の山広がりて若狭路に鳴く鹿の声ひびき渡りぬ 山田恵子



耕養庵蒼島短歌 (第三回) 平成十六年 秋季 入選作品


一位

 秋空に祭り囃子の鳴り響き飾られし山車が町を練りゆく
                            小浜市生守  林 征洋

  短評
  ほうぜ祭りの様子を詠まれましたね。笛や太鼓の音が後ろから聞こえて来るようです。
飾られた山車の後ろから作者がついて歩いている様子まで読む者に映ってきます。
「秋空に祭り囃子の鳴り響き」誠にさわやかな表現です。





二位

 潮の香の仄かにありて晩秋の水平線に貨物船の消ゆる
                            敦賀市鉄輪町 森口 かな江

  短評
  「潮の香の仄かにありて」作者は海近くに立っておられますね。
  水平線に船が消えてゆく、いい所をご覧になりました。
地球の丸さが判りますね。情景詠として一幅の絵になりそうな歌。





三位

 香り立つ金木犀の樹の下に六体地蔵は笑みて坐はする
                            小浜市飯盛  谷口 正枝

  短評
  作者は「六体地蔵さんに手を合わせている。金木犀の香りが馥郁と漂ってくる。
目を開いてみつめると六体地蔵さんが笑ってござる。」
こんな様子を読者は想像します。
歌全体が優しい視点で詠まれていて、作者の人柄にまで触れるようです。






大飯町 尾内の海岸から
                            
時岡兵一郎氏

美しい若狭を守り伝えたい・・・・・・