耕養庵蒼島短歌 (第二回) 平成十六年 夏季
| 朝鮮名と日本名もてる拉致の子ら姉呼ぶ時は北の名で言ふ | 池田 和栄 |
| 朝採りの紫蘇扱きをりし吾が手元にてんとう虫の一つ転がる | 池田 和栄 |
| なつかしき友と和菓子を頬張りつ小浜に在りて合歓の花咲く | 山本 一夫 |
| 焼き魚の浜風誘う磯の辺や若狭の地に来し宿のお菜は | 山本 一夫 |
| 水害に中学生等立ち上がる額のの汗ふき出すままに | 小堂 壽美子 |
| 泥掬くふ母は語りぬ子供等に尊い体験神は与ふと | 小堂 壽美子 |
| 心地よき初夏の風吹く峠道車窓の合歓にまなこ惹かるる | 村松 恵美子 |
| 昼下り風に乗りくるざわめきは校内プールの児らの歓声 | 村松 恵美子 |
| 山裾の合歓の高木に咲く花はうす紅の羽毛思わす | 西尾 道子 |
| 暑き日々幾日続きし後の雨茄子ピーマンの潤ほひて来し | 西尾 道子 |
| 青戸海山紫水明波静か山川登美子生れ育った感性で | 玉井 義三 |
| 夏の夜ぐづ焼祭りを見に行けば動橋の町すべて祭色 | 秋草 新之助 |
| 浴衣女が暖簾くぐりて立ち止まる老舗の菓舗の匂い漂う | 山崎 武 |
| 絵手紙を送りて当たる若狭カレイ若狭路博の想い出浮かぶ | 林 好栄 |
| 車窓に梅街道の灯火見ゆここを過ぎれば旅は終りて | 林 好栄 |
| 久方に水まんじゅう口にする瓜割の水手ですくい飲む | 林 好栄 |
| 南川沿うて走れば暦会館遠きにありて天文写す | 林 好栄 |
| 久須夜嶺ながめてみれば無の心 | 西村 守 |
| ごう雨なか子等の姿に救はれしと泥にまみれし母の一言 | 小堂 壽美子 |
| 水害の友助かむと駆けつけて息子は黙しスコップとりしと | 小堂 壽美子 |
| せヽらぎの音聞き乍ら名も高きくず万寿を若葉の影で | 吹田 かな絵 |
| 静かなるこのたヾずまい御茶室に若狭の名菓淑女等集ふ | 吹田 かな絵 |
| 濁流にのたうつ友の家々を息呑みて見る刻々のニュース | 小堂 壽美子 |
| 座敷をば我が物顔に荒れ狂ふ太き流木ただに憎かり | 小堂 壽美子 |
| 八百姫の歴史を語る人魚像沈む夕日に後光を放つ | 足立 哲 |
| 綿菓子のようポタリと落ちて円照寺モリアオガエルの命湧き出ず | 足立 哲 |
| 名店や季節々の風流和菓子ならて心より行く | 池上 千代子 |
| いにしえのいぶきただようおだやかなふうこうめいび自然にとみし | 池上 千代子 |
| やわらかな餡をふたりして若狭の地にて味わう也 | 吉田 千希子 |
| 街道の車途絶えし昼下り艶々と鳴く山の鴬 | 大崎 常子 |
| 朝々をめぐる菅湖の風の色時には泣きて時にほゝえむ | 大崎 常子 |
| いくそたび苦難越え来し八十路坂祈りの日々を今ひたすらに行く | 笹川 真照 |
| 対岸の原発見ゆる岸辺にてくらげゆうらり浮きつ沈みつ | 藤原 浩子 |
| ひとすじの青き光が弧を描く闇夜は蛍のキャンバスになり | 藤原 浩子 |
| 若狭の海小石が透けて見ゆる岸さざ波静かに渚を洗ふ | 坂野 光江 |
| 南川河口の水面を青く染め秋の気配は空よりきたる | 坂野 光江 |
| 万徳寺の山紅葉愛でし日もはるかつくづく恋し小浜のみ寺 | 岩崎 和子 |
| 松明の火の弾く音まざまざとお水送りに連なりし夜や | 岩崎 和子 |
| 松明をかかげて歩みし雪の道お水送りの思ひ出鮮らし | 岩崎 和子 |

美しい若狭を守り伝えたい・・・・・・
