耕養庵蒼島短歌 (第一回) 平成十六年 春季

新しき色をつけたる野村楓昨夜の雨霽れ若葉目に染む 谷口正枝
霞立つ山の朝に桐の花ほのかに揺れる淡きむらさき 谷口正枝
 「ふるさとの散歩道」をばなつかしみ耕養庵に集ひて学ぶ 村松恵美子
風雅なる耕養庵の茶室にて心の和むひととき過ごす 村松恵美子
なゝいろの菓子に魅せられ客足も日毎数増す此の店内に 西尾道子
南無大師事なく遍路終へし身のひもとく朱印のくきやかに滲む 佐野鈴子
九十の母伴ひて甥の店「すし拓屋」なる開店を祝ふ 佐野鈴子
春うららながめて見れば緑色お茶の香り我が胸にあり 西村 守
城跡の静けさ破る若獅子を見下ろす鯉や見上げるあやめ 片山英子
いにしえのにぎわい聞こゆ高常寺花や青葉の咲き競う庭 片山英子
花みずき曇天の下に咲き匂ふほのかな彩を愛でつつ歩む 村松恵美子
蕗の葉に野いちご包み呉れし児は旧家守りて母の座にあり 村松恵美子
先がけて白き躑躅が咲き盛り次々紅きが庭を彩る 古谷擴子
日の暮れて荒田に鳴ける蛙らははげしき声の主張異なる 杉谷康代
一面に麦穂の丈の出揃ひて青のすがしく初夏の風わたる 杉谷康代
達磨草と別名ありし座禅草苞炎の色洩れ日に渋く 村松正己
蒼島と縁深き耕養庵親しみもちて店舗に寄りぬ 村松正己
早苗田に補植なしゆく昼下がり園児らの声風に乗り来る 池田和栄
雅やな琴の音流るる店内に抹茶いただく安らぎのとき 池田和栄
鳳凰の羽根落ちるらん羽賀の里観音様が早苗見守る 片山英子
若狭路はいにしえ人のぬくもりが旅人つつむいやしの景色 早水孝子
しおの香にさそわれ降りた小浜駅おいしいにおい五感まんぞく 早水孝子
若狭人正直者で働き者ムダ口せづに汗流す人 玉井義三
夏一番愛宕火祭り空焦す後瀬の山にひびくかんせい 山崎 武
待つ間に茶に添えて賜ひし餅ひとつ主のやさしさ小浜の菓舗に 岩崎和子
海見放け背の山の緑を賞で訪るる再び若狭の五月を 岩崎和子
やはらかな主のもの言ひ嬉しくて若狭の菓舗に万寿を買ひぬ 岩崎和子
波静か青戸の入江人魚棲む仲良く並ぶ夕日映えて双児島 玉井義三
青葉風包まる小浜散策の和菓子に細む友を偲びて 山本一夫
菓子の技一子相伝と聞きしせば言の葉弾み帰路の後らす 山本一夫



耕養庵蒼島短歌 (第一回) 平成十六年 春季 入選作品


やはらかな主のもの言ひ嬉しくて若狭の菓舗に万寿を買ひぬ


 寸評

  一期一会の出会いの中で店主の印象を適確に捉えられましたね。
四、五句に「万寿を買ひぬ」と あり
お店にとっては、作者は大事なお客様でした。
  「毎度ありがとうございます」店主の声が聞こえて来る臨場感のある作品。



蕗の葉に野いちご包み呉れし児は旧家守りて母の座にあり


 寸評

  「蕗の葉に野いちご包み」遊びにも似てなつかしい光景です。
歌の裏に幼児の優しさが見えて来ます。
旧家に嫁がれ家を守り、子を育むお母さん、その笑顔までが見えます。
その様子を温かく見守る作者、愛情に満ちた歌。



夏一番愛宕火祭り空焦す後瀬の山にひびくかんせい


 寸評

  勇壮な愛宕山の火祭りが読者に伝わってきます。
上句は「夏一番」と切れ切れになりましたので、
  順序を変えて「空焦がす夏一番の火祭りに」とし、下句はこの侭でよく分かります。
かんせいは漢字にして下さい。
喚声は叫び声で歓声は喜びの声。
何れか迷いした。
一首の中に愛宕、後瀬山二つも地名を入れるのは無理。



特別賞

早苗田に補植なしゆく昼下がり園児らの声風に乗り来る


寸評

 以前は田植機で田植するとうまく植わらなくて欠株がでました。
その欠株を埋めることを補植といい
どの田でも行われ田植後の風物詩となっていました。

  今は機械の性能もよくなり欠株が少なくなったのと、
農家の高齢化に伴い専業農家の耕作面積が  
拡大したため補植する人も少なくなりました。

  この歌にある補植する人は長いこと農業に携わってきて
『一株でも勿体無い』という気持ちを持ったご年配の方とお見受けします。

  青々と植付けられた水田の広がる美しい自然の恵みの中で、
その勿体無いという気持ちと
園児らの声・・で子供たちを愛しく思う心、
世代を超えた交流、年寄りと子供たちの幅広い広がりが
  感じられる歌だと思います。

これを特別賞とさせていただきます。


美しい若狭を守り伝えたい・・・・・・