耕養庵蒼島短歌 (第八回) 平成十八年 冬季

籾殻に埋めおきし芋を掘り出せば手に温もりの仄かに伝ふ 谷口正枝
満月に苅田は白く浮かびゐて今宵の里は拡々と見ゆ 谷口正枝
喉元に後瀬の甘さ心地良く円き姿はあの山にも似て 藤井敏子
若狭路に耕養庵ありて賑わえる人情あふれる店のもてなし 藤井敏子
お水送り近づきたれば若狭路の雪の晴間の光明るき 内田あき子
波寄する人魚の浜の音やさし昔しのびつしばし聞きゐる 古川鏡子
戴きし茶釜冬瓜玄関にて年賀の客の話題となりぬ 村松恵美子
御食国若狭の里に海鳴りを聞きつ同人銘菓味わう 堀口光江
今宵見る冬空澄みて紺色の冷めたき中に星のまたゝく 西尾道子
雪除けて大根引くに降り續く見上ぐれば黒き灰の如くに 西尾道子
朝日さす紅葉明かるむ山裾はまばゆきまでにひと時を照らす 西尾道子
漸くに産後五十の日の過ぎて五キロの赤ちゃん吾が手に重し 西尾道子
活花の紅梅の蕾ふくらみて部屋には春の息吹漂ふ 芝令子


耕養庵蒼島短歌 (第八回) 平成十八年冬季 入選作品




第一席


お水送り近づきたれば若狭路の雪の晴れ間の光明るき

                        
和久里 内田 あき子
寸評

若狭では、お水送りが済むと、春が来ると言われています。
この歌は春を待つ歌だと思われます。四、五句によく表現されていて成功しました。
作者が言いたい事を下の句に据えたので歌全体に力強く感じます。
二句、お水送り「迫り来たりて」としたい。






第二席


戴きし茶釜冬瓜玄関にて年賀の客の話題となりぬ

                         
本郷 村松 恵美子

寸評

冬瓜を読まれました。冬瓜には、枕型冬瓜と茶釜冬瓜があって、茶釜
冬瓜はあまりにもぶんぶく茶釜に似ているので滑稽です。
四、五句色々と想像でき、臨場感があります。






第三席


寄する人魚の浜の音やさし昔しのびつしばし聞きゐる

                    
若狭町せせらぎ 古川 鏡子


寸評

昔、人魚の肉を食べて、八百歳まで美しい姿だったという伝説、
八百比丘尼を思い浮かべて詠まれた一首と思います。
四句「昔しのびつ」と終止になっているので
字余りでも「昔しのびつつ」と続けて詠んで下さい。







美しい若狭を守り伝えたい・・・・・・