水酉(みずとり)百話 〜日本の酒文化〜


「酒」のさんずいはご存じのように「水」です。
「水」と「酉 とり」で「水酉」→「酒」。


「酉」を「鳥」と置き換えて「水鳥」....
江戸時代よく使われた酒の隠語です。
「おい 水鳥 付き合ってよ。」
洒落に如何ですか



酒が゜「サケ」と呼ばれる様になった訳には、
色々な説がありますが
「クシ」の語音が次々と変化して「サケ」になったと言う説が有力です。
「クシ」は「奇し」の意味で、
非常に不思議なもの、珍しいものを表します。
古代人にとって、酒は奇跡の飲み物だったのでしょう。

世界中の民族で、民族固有の酒を持たないのは、
極北のイヌイット位だと言われます。
それもその筈で、発酵は微生物の営みですから、条件さえ整えば、
別に人間様のお世話にならずとも、酒はできる訳です。
その理屈を人間がちゃっかり頂戴して酒を造る様になったのです。



「猿酒」と言う言葉をご存知だと思います。
山へ踏みいると、
木陰の下の岩の窪みなどに、液体が溜まっていて、
とてもよい香りが漂っていて、
口にするととても美味しい酒になっている...
これはきっと猿が造った酒に違いないと言う話です。
多分山で実った果物が、偶然岩の窪みなどに落ちて、
自然に発酵し酒になったと考えられます。


我が国でもやはり古代人が最初に造った酒は「果実酒」だったと思われます。


日本酒は、蒸した米と蒸した米で作った麹を原料にして造ります。
米麹に含まれる糖化酵素で蒸米のデンプンをブドウ糖に分解し、
酵母に食べさせて酒を造ります。
この日本酒がいつ頃から造られるようになってかは、はっきり分かっていません。




ただ奈良時代初期の「播磨国風土記」に、
「神様にお供えしたご飯が塗れてカビが生えたので、
それを酒にして神様に献上して、酒宴をした。」と書かれています。
この時代のご飯は強飯でしたから、
お供えを放置しておいたら、麹カビが生えてしまい、
そこへ偶然雨が掛かって塗れてしまった。
壺か何かに入れておいたら、酒になっちゃった、と言うことでしょう。
強飯の水分は麹カビが生えるのに丁度適しています。


我が国で米不足が解消したのは、
たしか昭和40年代に入ってからだと記憶しています。


戦後、その頃まで、清酒用原料米は政府からの割り当てが続き、
実績に基づいて割り当てられた原料米の分しか清酒を造れませんでした。

戦前も食料米は決して潤沢とは言えず、
米騒動が起きた大正7年に合成酒が開発されました。
理化学研究所の鈴木梅太郎博士が作られたので、
当時は「理研酒」と呼ばれていました。
この合成酒は戦時統制下の昭和17年に最大生産量を記録し、
その後物資不足の戦後まで、清酒の代替品として愛飲されました。
アルコールに糖類や酸類を混和したもので、
清酒の生産が軌道に乗るにつれて減退して行きました。

ちなみに「金魚酒」と言われる酒は、昭和13年頃から横行しました。
単に日本酒に沢山水を混ぜただけで、
「酒の中で金魚が元気に泳げる」ほど薄い酒と言うブラックジョークです。

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戦前の一般的な清酒は、原料が米だけの「純米酒」でした。
それにアルコールを加えた「アルコール添加酒」か゜認可されたのは、
昭和17年です。
清酒もろみにアルコールを添加してから酒を搾ります。

昭和23年の全国的な大腐造を契機に、普及しました
昭和24年に認可された「三倍醸造酒」は、
「アルコール添加酒」の延長線上にある酒なのですが、
もろみに大量のアルコール 糖類 調味料を添加して 
米だけの酒の約3倍の酒を造るもので、
現在ディスカウントストアーで売られている安い酒 は
このタイプの酒か、このタイプの酒を一部ブレンドした酒が多い様です。

米不足の時代の苦肉の策だった「アルコール添加酒」「三倍醸造酒」が、
米余りの現代でも清酒の主力になっていることには、
批判も多いのですが、
コストパフォーマンスの関係と戦後の消費者の皆様の味覚が
「アルコール添加酒」に馴染んでしまわれたと言う要因があるようです。

またワインにも「アルコール添加酒」があることをご存知でしょうか。

スコッチは、モルトウィスキーにアルコールを添加したものです。

このような例もあり、アルコール添加を必ずしも悪者とばかりは言えません。




長い日本酒の歴史を顧みる時、
日本酒は日本人の生活文化に溶け込み、
いわば「日本酒文化」を形成して来たと言っても過言ではないと思います。

この日本酒が今後とも日本人に愛され続けられます様、
心から祈っています。



http://www3.ocn.ne.jp/~hemmi/

おまけ



酒宴を閉じるとき「宴たけなわでは、ございますが」と言った挨拶があります。
この「たけなわ」は「酒」偏に「甘い」で、「酣」と書きます。

酒が進んで、酒が美味しく甘く感じる様になった頃、
酒を止めるのが絶好のタイミングなのだそうです。

それ以上は深酒になってしまいます。
分かっているけど止められない...
 


    わかさ冨士  代表取締役 逸見寿一




美しい若狭を守り伝えたい・・・・